(缶詰時報 2002年 2月号掲載)

 第3研究室では、平成11年度より誘導加熱および通電加熱を利用した容器詰め食品の殺菌技術ついて研究しております。誘導加熱および通電加熱の利点として、エネルギー効率が良いこと(供給した電力が実際の食品の加熱に変換する割合)、ボイラーおよび水処理等の設備が不要であることが挙げられます。誘導加熱では食品容器に渦電流を発生させ、容器自体を発熱させます。この熱が内容食品に伝導し、加熱殺菌されます。加熱の原理上、容器は鉄・アルミなど導電性の材料に限られます。他方、通電加熱では食品そのものが電気抵抗体であることを利用し、食品に電気を供給することで食品自体を発熱させるもので、従来のレトルト殺菌に比べて殺菌時間を大幅に短縮することができます。エネルギーの節約だけでなく、今までにない高品質な食品の開発も期待されます。

ところで「電気を熱源とする」ということに対し、気になることがあります。電気代はガスや重油に比べて高いのではということです。そこで、電気で直接食品を加熱する場合とレトルト加熱のエネルギーコストの試算を行ってみました。レトルトの熱源は蒸気ボイラーですが、小規模な食品工場を想定し、小型のレトルト1台分程の換算蒸発量毎時300kgの能力を持つボイラーを使用するものとします。発生蒸気の熱量は189kW時となります。貫流型ボイラーで効率を85%とすると、燃料消費量は重油で毎時

 

18.6kg、ガスでは19.2Nm3となります。A重油の価格が現在、1kg当り約35円、ガスは13Aで1Nm3当り約100円です。よって重油焚きでは毎時約650円、ガス焚きでは1920円のコストとなります。一方、電気は業務用電力を使用した場合、1kW時で約15円ですので上述のボイラーと同じ熱量(189kW時)を発生させるのに毎時2835円のコストとなります。重油と比べた場合、電気代は4倍以上高いことになります。電気殺菌機の消費電力から見ればもっと電気代は高くなるでしょう。また、レトルト加熱では常時ボイラーをフル運転することはないので、燃料代はこれより安く済むでしょう。こうして見るとレトルト加熱に軍配が上がりそうですが、電気殺菌の迅速さに着目しますと、驚くべき優位性が見えてきます。先程の述べた189kW時の熱量は450gの食品の温度を1秒で100℃上げるのに相当します(比熱・熱伝導率等は水と仮定)。1時間では1.6トンの生産量にもなります。理屈の上ではこのような生産が電気殺菌では可能となります。一方、レトルト加熱では蒸気から食品への熱伝達に時間がかかるので加熱開始後1時間だと1バッチも終わっていないでしょう。
 以上の試算は非常に大雑把なものですが、生産量ベースで見れば電気殺菌はコストダウンに貢献するものと考えられます。今後とも従来からの技術を踏まえながら新しい殺菌技術の開発に全力で取り組んでまいります。
              

(第3研究室研究員 五味雄一郎)


<2001年12月の主な業務>

試験・研究・調査

  1. 介護食のレオロジーに関する研究 
  2. 熱伝達シミュレーションへの並列分散処理の応用 
  3. 小型熱交換器による飲料の超高温殺菌に関する研究 
  4. みかん缶詰の恒温放置中における菌数変化 
  5. 高度精白米におけるボツリヌス菌の発育挙動に関する研究 
  6. 果実缶詰の品質に及ぼす糖類などの影響について 
  7. インターネットによる情報管理

依頼試験

新規受付33件、前月より繰り越し28件、合計61件、うち完了50件、来月へ繰り越し11件。
主要項目;缶詰、レトルト食品の貯蔵試験、原因究明(変色、異臭)、異物検定、栄養成分ほか成分分析、変敗原因究明、細菌接種試験、菌株同定、細菌試験、芽胞数測定、菌株分与、証明書作成、容器密封性状試験、加熱殺菌、FDA登録関連業務、通関統計データ処理

その他

  1. チルド食品・食品包装プロセス研究会業務(情報誌作成、事務業務)
  2. 理事会資料作成 
  3. 展示会調査(国際画像機器展)
  4. 主任技術者講習会(巻締:資格査定、HACCP:講義)
  5. 缶詰時報原稿作成 
  6. 会員サービス(企業訪問、電話、電子メール回答など)

登録:2002/2/19
Copyright (c) 2002, (社)日本缶詰びん詰レトルト食品協会 Japan Canners Association