(缶詰時報 2003年5月号掲載)
日,SARS(=重症急性呼吸器症候群)関連の情報が報じられており,主要感染地域である中国や東南アジアに食品製造原料を多く依存している食品業界にとって大変深刻な問題であります。SARSの主原因は新種のコロナウイルスといわれていますが,中心遺伝子を膜が包む形をして,その表面に突起が多数存在し太陽のコロナに似ていることから名付けられているそうです。一般的にウイルスは,60℃,30分以上の加熱には弱く(冷凍に強い),酸,次亜塩素酸,紫外線,アルコールなどにも弱いとされております。加熱処理を伴う食品製造に関しては,仮に原料にウイルスが付着または汚染があったとしても,危害はないと考えられます。製造原料を受れ入れる際には様々な微生物危害を検討しなければならないと思われますが,変敗原因となるのか,制御出来るのか,個々の原料に本来由来する微生物の種類,性質を把握していなければ危害分析は成立しません。

品微生物学研究室では変敗原因菌の同定のための手法として生物性状試験による他にPCR(polymerase chain reaction)法による遺伝子解析を平成12年度より行っております。細菌同定(検出とは異なります)にPCR法を導入した場合の利点は,第一に迅速であることです。従来法では1〜2週間の時間を必要とするのに対して,PCR法では細菌の単離と増菌培養を除けば, 2日間で同定結果が得られます。第二には操作が簡便で,作業者による誤差が少ないことです。従来法では作業者の知識や技術が要求されますが,PCR法では操作手順書に従って作業を進めれば知識も技術もなく誰にでも結果が得

られます。しかし,こんな楽ちんな同定法にも欠点があり,装置が高価で,ランニングコストは生物性状による同定と比較したら20倍以上かかってしまいます。また,当研究室では容器包装詰加圧加熱食品に関係する変敗原因菌について同定を進めておりますが,私たちが扱う耐熱性有芽胞細菌のデータはデータベース上には乏しく,該当しないことが多々あります。同定結果が既知の細菌であれば生物性状も解明されているので大変有効な方法であると言えますが,迅速に細菌の名前が分かっても新規の菌種であったり,聞いたこともない菌名であったりします。結局,耐熱性や芽胞の有無等の変敗原因究明に必要な生物性状がまるで分かりません。新しい名前を付けるのは簡単ですが,その菌がどんな性格なのか分からなければ何の役にも立たちません。ですから,現在でも当研究室の主な微生物同定法は生物性状試験であり,PCR法による同定は生物性状試験の情報では得られない正確な分類に役立てております。食品製造の品質管理の現場では,より迅速な微生物検査が求められると思いますが,微生物検査の第一歩それは顕微鏡観察してくださいということです。

微鏡で観察しただけで微生物の形,芽胞形成の有無などが判別でき,耐熱性の有無,原料由来かなどおおよその危害分析が出来ると考えます。様々な微生物危害が懸念される日々ではありますが,食品微生物学研究室では錯綜する情報に振り回されず,正確な知見のもと情報を提供していきたいと考えております。

(食品微生物学研究室・研究員 山口 敏季)


<2003年3月の主な業務>

試験・研究・調査

  1. 小型熱交換器による飲料の超高温殺菌に関する研究
  2. ボツリヌス菌接種試験(厚生労働省補助研究) 
  3. 加工米へのボツリヌス菌接種試験 
  4. 高温性嫌気性細菌芽胞の調製と耐熱性試験 
  5. アルミレスパウチの性能評価試験 
  6. 水産缶詰の香気成分と加熱殺菌との関係 
  7. インターネットによる情報管理

依頼試験

新規受付17件、前月より繰り越し13件、合計30件、うち完了13件、来月へ繰り越し17件

主要項目;レトルト食品の貯蔵試験、異物検定、成分分析(栄養成分、香気成分、鮮度関連物質)、細菌接種試験、菌株同定、菌株分与、容器性能試験、熱伝達試験、FDA登録関連業務、試製、証明書作成、通関統計データ処理、研修
その他

その他

  1. チルド食品・食品包装プロセス研究会業務(情報誌作成、会議開催、事務業務)
  2. 主任技術者講習会(巻締:資格査定)
  3. 講習会講師(北海道缶詰協会講習会)
  4. 会員企業訪問(工場調査)
  5. 外部会議 
  6. 会員サービス(電話、電子メール回答、来訪対応など)
  7. 管理一般(備品、建物補修関係)

登録:2003/5/16
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