(缶詰時報 2002年 4月号掲載)

 缶詰食品の殺菌基準はここで述べるまでもなく120℃,4分です.ただし,当該食品のpHが4.6を超え,かつ水分活性が0.94を超えるもの(pHと水分活性はそれぞれ単独の要因)と,さらに加圧加熱殺菌処理が施される場合にのみ適用されることになります.それでは最終製品が加圧加熱殺菌処理されないものについてはこの120℃,4分は適用されないのでしょうか.わが国の食品衛生法では該当する食品を容器包装詰加圧加熱殺菌食品としていますので加圧されないものについては適用を受けないことになります.一方,米国ではpHが4.6を超え,かつ水分活性が0.85を超える密封容器詰加熱殺菌食品には120℃,4分相当の加熱処理が必要となっています。この120℃,4分は缶詰食品で問題となるボツリヌス菌芽胞を殺滅することを目的としているものであり,これまで報告されている本種芽胞の耐熱性値が根拠となっています.
それでは加圧されない密封容器詰殺菌食品はボツリヌス菌に対して安全といえるのでしょうか.当然のことながら常温で流通,販売される密封容器詰殺菌食品の潜在的微生物危害としては何をおいてもボツリヌス菌が挙げられます.

 

商業的に製造された缶詰食品で大きなボツリヌス食中毒事故が発生していないわが国とボツリヌス食中毒防止を業界から国へ要望した米国とではそのボツリヌス食中毒に対する背景や考え方が異なるのは当然かとも考えます.がしかし,多国籍の原材料を使用する状況下ではまず第一にボツリヌス菌に対する安全性を評価しておくことが急務と考えます.昭和59年(1984年)年に発生した真空パック詰辛子れんこんによるA型ボツリヌス食中毒では死者11名が出ており,平成5年には里芋缶詰で一家4人が罹り,平成11年にはハヤシライスソース(要冷蔵)でA型ボツリヌス食中毒が発生しています。わが国ではいずしによるE型ボツリヌス食中毒が件数では特筆されるようですが,無菌化包装製品やホットパックにより製造されている製品で最終製品に120℃,4分の加熱殺菌処理が施されていないものについては,少なくとも製品中における本種の発育挙動や製造工程における加熱処理工程の評価を科学的な手法により調べることが必要ではないでしょうか.

(研究所次長兼第2研究室長 駒木 勝)


<2002年2月の主な業務>

試験・研究・調査

  1. 介護食のレオロジーに関する研究 
  2. 熱伝達シミュレーションへの並列分散処理の応用 
  3. 小型熱交換器による飲料の超高温殺菌に関する研究 
  4. みかん缶詰の恒温放置中における菌数変化 
  5. 果実缶詰の品質に及ぼす糖類などの影響について 
  6. インターネットによる情報管理

依頼試験

新規受付29件、前月より繰り越し11件、合計40件、うち完了25件、来月へ繰り越し15件。

主要項目;缶詰、レトルト食品の貯蔵試験、原因究明(容器腐食、異臭)、異物検定、揮発性成分、栄養成分、重金属ほか成分分析、変敗原因究明、細菌接種試験、菌株同定、カビ同定、芽胞数測定、菌株分与、証明書作成、容器密封性状試験、FDA登録関連業務、通関統計データ処理

その他

  1. チルド食品・食品包装プロセス研究会業務(情報誌作成、会議開催準備、事務業務)
  2. 缶詰品評会事務局業務 
  3. 海外研修員指導 
  4. 会員工場訪問調査 
  5. 講演会講師担当(長野県)聴講(食品の無菌包装システム、水産利用懇話会) 
  6. 会員サービス(企業訪問、電話、電子メール回答など)

登録:2002/4/15
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