(缶詰時報 2002年 6月号掲載) |
風薫る5月といわれているのに,真夏のような気温になったかと思えば,大雨や曇りの肌寒い日々が続いています。気象庁によれば、今年の春(4月)の平均気温は全国的に平年を1℃以上上回り(全国の9地点で月平均気温の最高値を更新)、降水量も平年の170%以上となったところがあれば,太平洋側の地方では平年を下回り、平年の40%以下となったところがあったようです。このまま異常気象が続き、メリハリのないまま梅雨に入ってしまうのでしょうか。
梅雨時期から気温が上がり,雨や曇りの天気が続きますと,毎年のことではありますが食中毒に関する事故が増えてきます.家庭において簡単な調理ですむ半加工食品が市場に増え,現在では,汚染された調理食品を取り扱う過程で他の調理食品が汚染される二次汚染による食中毒が数多く発生しています.家庭で消費される加工食品自体が低加熱傾向にあるため,食品製造においては,消費者以上の食品の安全性へのこだわり,特に微生物管理が重要となってきます.
私たちの第2研究室では食品の変敗原因の究明を行っていますが,ここ数年では缶詰やレトルト食品の有芽胞細菌による変敗事故よりも,果実加工品や清涼飲料水のような加熱後充填する食品の耐熱性カビによる変敗事故が増加しています.
一般的にカビの耐熱性は低く,80℃程度の加熱条件で十分死滅し,製造過程で加熱処理を施す加工食品では変敗は起こらないはずでありますが,耐熱性カビでは80℃以上の加熱処理でも生残し変敗を引き起こします.耐熱性カビとしては,Byssochlamys,Neosartorya およびTalaromyces などが変敗原因として知られ,100℃,30分間でも生残する耐熱性が強いカビも存在します.私たちの研究室でもびっくりするような耐熱性の高いカビが検出されており,原因究明の依頼数増加に頭を悩ませております. 細菌と違い,カビの取り扱いには十分注意が必要で,カビ胞子は拡散するためサンプリング時に検査室内に拡散するのを防がなくてはならず,不用意にサンプリングすれば,他の検体,食品を汚染してしまいます.また,同定に至るまでには長い培養期間(2週間〜1ヶ月以上)が必要で,種属判定,耐熱性試験等にも更に専門的な知識が要求されています.今後,増え続けるであろう耐熱性カビによる変敗事故を未然に防ぐために,より一層の基礎的な研究と食品製造現場に対応する微生物管理を進めていかなければならないでしょう.
(第2研究室研究員 山口 敏季)
<2002年4月の主な業務>試験・研究・調査
- 介護食のレオロジーに関する研究
- 小型熱交換器による飲料の超高温殺菌に関する研究
- みかん缶詰の恒温放置中における菌数変化
- 果実缶詰の品質に及ぼす糖類などの影響について
- インターネットによる情報管理
依頼試験
新規受付17件、前月より繰り越し13件、合計30件、うち完了21件、来月へ繰り越し19件。
主要項目;缶詰、レトルト食品の貯蔵試験、原因究明(容器腐食、変色、異臭、結晶物)、異物検定、成分分析(栄養、重金属、揮発性成分)、官能評価、細菌接種試験、菌数測定、抗菌性試験、菌株分与、証明書作成、容器性能試験、殺菌、巻締検査、FDA登録関連業務、通関統計データ処理その他
- チルド食品・食品包装プロセス研究会業務(情報誌作成、事務業務)
- 主任技術者資格認定講習会(殺菌:講習会講義、品質管理:査定)
- 会員工場訪問調査(広島、長野)
- 講演会聴講(ミールソリューション研究会)
- 会議出席(技術委員会、日本介護食協議会)
- 会員サービス(企業訪問、電話、電子メール回答など)