(缶詰時報 2008年6月号掲載) |
「ハザード(危害)が生じやすい最悪の状態であってもリスクが小さくなるように計画を作成し実行する。」HACCPやリスクアナリシスなどでよく言われることである。缶詰食品の殺菌条件は、かなり昔からこの考え方をバックボーンにして設定されている。加熱殺菌時に熱伝達が最も遅く殺菌効果が最低となる冷点に高濃度の有害な耐熱性微生物がたとえ存在したとしても商業的無菌性を達成できるように加熱殺菌されている。多くの条件が殺菌効果に影響する。例えば固形物のサイズ、内容物の粘度、内容初温、残存空気など缶詰食品によって異なる。これらがすべて殺菌効果の小さくなるような状況になったとしても殺菌不足にならないようになっている。そうして加熱殺菌の安全性が保証されている。このような最悪条件が同時に起こる確率は非常に小さいけれども、安全性が最も重視されているのである。
しかし、このように厳重に設定したとしても、殺菌不足の生じるリスクはゼロにはならない。予測できなかった事態が生じる可能性もある。とはいっても、リスクをゼロにすることは不可能ということに安住してはいけない。予想外のことが起きるという前提で、その前兆はないか絶対に見逃さないという気概が必要と思う。どうしてもリスクはゼロにはならないと諦めてしまったら、おしまいである。
クライシス(危機、被害が起きてしまった状態のこと)を生じた後、「あの時にこうすればクライシスを防げた。なぜ、やらなかったのか?」と必ず後悔の念を抱くと思う。つまりクライシスは予測不可能だったわけではなく、予測が不十分であったことが多いのではないか。場合によっては、よけいな心配が杞憂となることもあるかもしれないが、クライシスが起きるよりはましである。さらに、科学技術には限界があるが、人間の感性や直感力でそれを補うこともできる場合があると思う。ただし、逆に人間は、クライシスが怖くて思考が止まってしまい判断自体をしなくなる欠点があるので、うまく組み合わせる必要がある。
いずれにせよ、クライシスが起きてしまったら後戻りはできない。SF小説では「時をかける少女」などのように交通事故の前にタイムトラベルをしてクライシスをリセットしているが、現実ではそのようなやり直しはできないのである。
(食品工学研究室 戸塚英夫)
<2008年4月の主な業務>
試験・研究・調査
交流高電界加熱による耐熱性細菌芽胞の挙動(会員企業との共同研究)
変敗缶詰食品から分離したC.thermosaccharolyticum の芽胞の耐熱性測定
カムアップ時におけるレトルトの温度分布測定
インターネットによる情報管理
データベースの実用化
依頼試験
新規受付25件、前月より繰り越し34件、合計59件。うち完了39件、来月へ繰り越し20件。
主要項目:貯蔵試験、分析(ヘッドスペースガス、栄養成分等)、付着物同定、異物検定、スズ定量、原因究明(腐食、白濁、異味、異臭、変色)、開缶調査、品質評価、微生物接種試験、耐熱性試験、無菌試験、菌株同定、容器性能試験、FDA殺菌条件申告、FDA施設管理登録、英文証明書作成、ホームページ管理、通関統計データ処理
その他
基礎技術講習会講師担当
研究会(食品包装プロセス会議開催、情報誌原稿作成)
定期ガス設備点検立会い
日本食品微生物学会理事会出席
FDA管理サービス関連業務
会員サービス他(技術相談、文献調査、見学応対、電話、電子メール回答)
Update 2008/6/12 |
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