(缶詰時報 2011年12月号掲載) |
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本欄の主な業務にありますように、現在「食品固形物のテクスチャー」について研究しています。近年、介護食などの普及に伴い食品固形物のかたさの重要性が増しているのが、この研究を始めたきっかけです。将来は、食品固形物を咀嚼する時の力学的応答を解析し、シミュレーションモデルを構築することを目標にしています。
食品の咀嚼は非常に複雑な現象です。食品固形物は断続的に変形したり破壊されたりします。困ったことに、食品のように動植物由来の固形物は多様かつ不均質であり、一つの固形物でも部位によって構造やかたさが異なります。例えば成長した植物では若い部位と老化した部位が混在しています。動物由来の固形物では筋肉や皮など複数の組織から構成されることがあります。このように動植物由来の食品固形物のかたさ分布は複雑ですが、このことを理解しないと固形物の力学的応答を考えることができません。
物質の力学的応答を考えるような学問領域をレオロジーといいます。レオロジーという名称は古代ギリシャの哲学者ヘラクレイトスの「万物は流れる」にある言葉から付けられました。その他にもレオロジーには古代西洋にちなんだ用語がたくさんあります。例えば、「デボラ数」もそうです。岩石は固体ですが、長い年月でみれば地層の中で液体のようにふるまいます。このように流れる、流れないは観察時間のタイムスケールに依存するので、観察時間を物質も変形に要する時間で割った値を「デボラ数」と定義されました。デボラは旧約聖書に出てくる女性予言者の名で、彼女は戦勝を祝って「もろもろの山は主の前に流れ動いた」と歌いました。人の目には山は動かないけれども、神のみがもつ無限のタイムスケールでは山も流れ動くのです。
巨大地震は長いタイムスケールで考えれば起きるものかもしれませんが、人間の英知を結集すれば短いタイムスケールでも復興できると思います。
(食品工学研究室 戸塚英夫)
<2011年10月の主な業務>
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Update 2011/12/12 |
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