ジャム・ストーリー
廿日出 多真夫
(1999年寄稿)

 ジャムとは果物に砂糖を加え、加熱濃縮することによって果物の水分を砂糖に置き換え、酸とペクチンの力によってゼリー化したものです。果物によっては、保有するペクチンが少なかったり、酸味の弱いものがあるので、天然のペクチンや酸を加えて補正し、バランスを整えます。そして、それぞれの果物本来のフレーバーを生かして仕上げた嗜好品です。

 ヨーロッパでは日本の漬物のように、昔から地域の風土にあったジャムが生まれ、長い歴史を誇っています。日本の食文化は、日本古来のものを大切にしてきましたが、外来の食品を幅広く受容し、日本の風土にあった風味に作り変えてきました。しかし、日本人の嗜好は時代の変遷とともに大きく変わってきたように思います。ジャムも戦前はヨーロッパ文化の影響を強く受け、特に英国風のものが珍重されました。当時は缶詰がほとんどで、使用時に開缶しジャム壺に移し替え、食卓に供されました。戦後はアメリカ文化の影響により、びんも使用しやすくスマートになり、そのまま食卓で開封し使用するのが通常のパターンとなりました。

 高度成長によって経済大国となり、国民全体が豊かになるに従い、嗜好品でも体に負担のかかるものは嫌われ、体に優しいものが好まれるようになりました。したがって自然、塩や砂糖の多い嗜好品は敬遠されがちになってしまいました。長い間、おいしさの最大要素は甘さでした。一定量の砂糖とバランスのとれていたジャムの風味から砂糖を減らして、おいしいジャムを作ることは、大変な冒険でした。その難しい技術に挑戦したのが日本のジャムメーカーです。ヨーロッパでは、ジャムのことをコンサーブといいます。果物の砂糖漬け、すなわち一種の貯蔵品です。特にアメリカのように大きなマーケットでは、砂糖を減らした低糖度ジャムの場合、保存料を入れたり、着色料によって色を付けないと、常温流通は難しいようです。今日でも、アメリカのジャムのスタンダードは糖度65度以上で、ヨーロッパは60度以上となっています。私たちは昭和63年にJASを改正して、糖度40度以上をジャムとして、ジャムのおいしさは甘さでなくフルーツの量とし、欧米に先駆けて新しい時代のジャムをデザインしました。いまや日本のジャム産業の技術は非常に進歩し、先輩の欧米を追い越した感がいたします。

 このように私たちの技術が進歩したのは、メーカーの努力もさることながら、味に厳しい消費者のみなさんのおかげだと思います。バターなしでもたくさんのジャムをパンに乗せて、おいしく召し上がっていただけるようになりました。また、健康に良いヨーグルトに砂糖の代わりにジャムを加えていただければ、体に優しくおいしいフルーツヨーグルトがお楽しみいただけます。ジャムは嗜好品ですから、糖度の高い伝統的なジャムから、甘さを極度に抑えた超低糖度のものまで、幅広く作られています。それぞれのお好みに応じて、多彩な果物の味を楽しんでください。ジャムをご利用いただくバリエーションも限りなく広がるものと思います。


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