令和7年度 逸見賞授賞報文
1. 選考期日
2025(令和7年)年9月4日(木)
2. 授賞報文
♢ 逸見賞(1本)
○ 食品用ラミネートフィルムに含まれる金属類の溶出
地方独立行政法人大阪健康安全基盤研究所 岸 映里、尾崎 麻子、新矢 将尚
食品衛生学雑誌 Vol.65,No.6 (2024)
選考理由;食品用包装材は、食品の変敗防止と品質保持のため多様な性能が要求されることから、複数のフィルムを積層したラミネートフィルムが使用されている。食品衛生法では器具・容器包装の原材料である合成樹脂にポジティブリスト制が導入されたが、無機物質は対象外となったため食品接触面に使用されている材料が規制対象となっている。一方海外で流通するプラスチック製食品包装材にはCdやPbなどの重金属が含まれ食品疑似溶媒へ溶出が報告されているが、食品用ラミネートフィルムについては接着剤由来の有機化合物の溶出に関する報告はあるものの、金属類に関する報告は見られない。そこで本研究では市販の食品用ラミネート袋を対象に材質中に含有される金属類の調査を行い、それらの食品疑似溶媒への溶出量を定量した。その結果食品非接触面からの金属類が検出され、食品衛生上直ちに問題になることはないものの非接触面から食品に溶出する可能性があることが確認された。このことは食品の安全性担保に重要な知見をもたらすとともに、今後使用が増加するであろう再生材料の評価にも有用であると期待されることから、高く評価した。
♢ 奨励賞(2本)
○ Alicyclobacillus 属細菌およびグアイアコール産生菌種の迅速検出法 GENE-UPⓇ PRO ACBの評価に関する報告
東海大学大学院 安池 結理、後藤 慶一
東海大学 外山 太誠
ビオメリュー・ジャパン株式会社 立山 啓
果汁協会報 Vol.798,No.2 (2025)
選考理由;Alicyclobacillus 属細菌は好熱性好酸性菌として土壌中などに広く分布している。本菌は病原性はないとされているが、一部の菌種はクレオソート様の薬品臭を呈するグアイアコールを産生して品質異常を起こす。特に果汁飲料やスポーツドリンクなどの常温流通するペットボトルや紙容器製品などで問題となり、かつpH4.0未満の清涼飲料水に義務づけられている殺菌条件では死滅し ないことから、管理すべき菌として重要視されている。本菌の検査方法は日本果汁協会が推奨しているJFJA法が業界推奨検査法として推奨されているが、検査結果が得られるまでに長い期間を要することから同程度の結果精度を有する迅速検査法が求められている。本研究ではリアルタイムPCRによるGENE-UP法についてJFJA法との同等性評価を行った。その結果、初期汚染調査では両試験法の結果が一致し、接種試験においても、検体により培養時間を延長させるなど工夫が求められる場合があるものの検出感度は同等であり、GENE-UP法は複雑な操作もなく検査期間を大幅に短縮できる方法として高く評価した。
○ 食品の異臭発生状況の文献調査による類型化
日清オイリオグループ株式会社 川瀬 健太郎
東京海洋大学学術研究院 座本(山中)典子、濱田(佐藤)奈保子
日本食品科学工学会誌 Vol.72,No.3 (2025)
選考理由;食品事業者は製品の安全性について細心の注意を払っているものの、苦情や製品事故は断続的に発生している。このうち食品そのものの品質不良要因として異物混入、不適切な表示、異味・異臭、腐敗・変敗などが原因とし上位をしめているが、異味・異臭は発生要因を特定するための情報の取得が難しい面もあり、原因究明においては異臭の原因物質の同定にとどまることも多い。食品苦情に関する研究は過去に数例あるが、食品異臭苦情を網羅的に集計し解析した研究方向はあまり見られない。本研究は過去41年間にわたる報告書、学会発表、学術誌などを収集し、異臭苦情を原因物質の視点から食品別、臭気別に整理して実態を明らかにするとともに、工程解析から異臭苦情の発生状況の類型化を検討したもので、原因物質である臭気の種類と食品の種類や発生段階との関係を明らかにした。さらにフローダイヤグラム分析の実施状況が原因工程の特定率に大きな影響を及ぼすことが示唆されるなど、今後食品異臭苦情の発生時における迅速で適切な対処に資するデータ集として利活用することで食品安全対策の構築に貢献する知見となることから高く評価した。
3. 選考委員名簿(敬称略)
委員長 | 久田 孝 東京海洋大学 学術研究院教授 |
委員 | 竹永 章生 日本大学生物資源科学部食品生命学科特任教授 |
〃 | 石原 賢司 (国研)水産研究・教育機構 水産技術研究所 環境・応用部門 水産物応用開発部 主幹研究員 |
〃 | 佐藤 一弘 東洋製罐グループホールディングス㈱ 綜合研究所 所長 |
〃 | 長嶋 玲 大和製罐㈱ 先端技術研究 所長 |
〃 | 田中 光幸 田中技術士事務所 所長 |
〃 | 石川 敦祥 日本缶詰びん詰レトルト食品協会技術委員会 委員長 |
4. 表彰式
2025(令和7年)年11月20日(木)
第74回技術大会開会式席上
[シャトレーゼホテル長野(長野県長野市七瀬1-1)]